green leafed plant

Well-being

ウェルビーイングは、最高善とも言われ、アリストテレスの時代から哲学者らによって議論されてきました。議論の中心は、ウェルビーイングとは何かを紐解こうとする試みにあります。現在、ウェルビーイングは、ポストSDGsのコンセプトとしても期待される人類の共通語になりつつあります。しかし、その実態はまだよく理解されているとは言えません。

ウェルビーイングは次のように定義されています:

ウェルビーイングとは、個人およびコミュニティが身体的、物質的、精神的、社会的に良好な状態を保ち、充実感や満足感を感じる状態を指します。これには、健康、経済的安定、環境との調和、日々の喜び、自己実現の機会、人間関係など、さまざまな要素が含まれます。

つまり、わたしたちの健康、暮らす環境、「嬉しい・楽しい」などのその時々の気持ち、長期的に得る人生の意義、人とのつながりにおける良い状態です。
ウェルビーイングは、すべての人が享受すべき状態であり、形も実現の方法も様々です。

この定義を踏まえて、私たちはウェルビーイングの向上に向けた具体的な施策やアプローチを検討し、実行に移していくことが求められています。社会全体でウェルビーイングを推進するためには、政策立案者、企業、市民社会など、多様なステークホルダーが協力し合うことが重要です。A lutenでは、こうした人間のウェルビーイングに加え、私たちの生活を支える土台である地球のウェルビーイングについても考えていきます。

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    2025/1/30
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    内閣府向け講演報告「ウェルビーイングの政策への適用プロセス」

    内閣府職員に向けた研修にて、ウェルビーイング(WB)*1に関する講演を行いました。内閣府では、長年、国民の価値観や生活意識の変化を捉えるため、「満足度」や「生活の質」に関する調査を実施しており、内閣府経済社会総合研究所においてもWBの研究が行われています。今回の依頼は、「WBの政策への適用プロセス」をテーマに、主観的な評価項目や政策的フレームワーク*2について、詳しく話して欲しいというものでした

     

    講演内容については別の機会で取り上げるとして、質疑応答では、特に地方でWBの取り組みが盛んな印象を持つとの指摘がありました。特定の都市だけを取り上げても、所得やWBスコア、性別、年代別で多様な傾向が見られ、こうした細かな違いを捉えるには大規模なデータでは難しく、地域ごとの特徴に焦点を当てた分析が重要です。地方自治体は、こうした地域ごとのニーズや価値観を丁寧に捉え、それに応じた政策を実施することで、WBを効果的に向上させることができると考えられます。

    講演では、イングルハートの世界価値観調査を用いて、農耕社会のように社会的流動性が低い地域や宗教色の強い国よりも、近代化が進む国の方が幸福度が高いことを報告しました。しかし、それに対し、「農耕社会に見られる共同体の支え合いもウェルビーイング(WB)に影響を与えるのではないか」との指摘がありました。これまで、価値観は宗教的価値から合理的価値へ、さらに個人の自由を重視する民主的価値へと変遷してきましたが、今後も変化が続くと考えられます。その中で、伝統的な価値観や社会的つながりへの回帰が幸福に与える影響が強くなる可能性もあります。近年、欧米で重視されてきた個人主義的なウェルビーイングに対し、アジアなどで注目される「他者とのつながりの中で見出されるウェルビーイング」が関心を集めていることも、こうした変化の一端と捉えられるかもしれません。

     

    さらに、アマルティア・セン*4の潜在能力アプローチの評価方法についても質問がありました。このアプローチは、物質的な豊かさや量的指標にとどまらず、個人がどれだけ自分の可能性を発揮できるかに焦点を当てるものです。予算や人員(インプット)が必ずしも同じ結果(アウトプット)をもたらすわけではなく、インプットを、期待されるアウトプットやアウトカムに転換する「潜在能力」に配慮することが重要となります。こうしたアプローチの評価についてはまだ未開拓な部分が多いのですが、1つの可能性として、これまでの定量的な(数字で表される)評価に加え、定性的(ナラティブと呼ばれる)評価の重要性も増してくると考えています。

    最後に、WBは、地域ごとの特色を踏まえた支援が必要であり、地方自治体が地域のニーズに応じた施策を講じ、国はそのサポートを行うという国と地方の役割分担についても意見をいただきました。

    今回、WBの実現には地域ごとのニーズに応じた柔軟なアプローチが必要であり、伝統的な価値観や社会的つながりの重要性を再認識しました。また、従来の定型的な政策形成から、センの潜在能力アプローチのような状況に応じた施策の形成プロセスを含めた研究や取り組みが引き続き不可欠であると強く感じています。

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    *1ウェルビーイング(WB):「肉体的にも精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態」かつ継続性のある幸福

    *2政策的フレームワーク:政策や事業において、目的、成果、活動、リソースを論理的に整理し、因果関係を明確にするために用いられるロジックフレームを元に開発されたウェルビーイングを政策に適用する際のフレームワーク

    *3EBPM:エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング。証拠に基づく政策立案。

    *4アマルティア・セン:インド出身の経済学者で、福祉経済学や貧困、飢餓、不平等の研究で知られ「潜在能力アプローチ」を提唱した人物。2000年にノーベル経済学賞を受賞。

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    >過去の研究成果等はこちら

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    2024/9/4
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    登壇「9/24福岡・オンライン開催┃持続可能な社会の実現に向けて 」

    代表の菊澤がフェローを務める福岡アジア都市研究所では、新たな都市の評価に関するセミナーを開催します。
    菊澤はパネルディスカッションの司会進行として登壇し、企業や大学で問題解決に取り組む3氏と議論を盛り上げます。

    福岡アジア都市研究所(URC)では、2022~2023年度の総合研究として主観的評価を重視する「ウェルビーイング」をテーマに、新たな都市の評価に関する研究を実施しました。人々の価値観の転換や多様化等を背景に、求められる都市像が変化する中、まちづくりの指標について研究結果を報告します。


    福岡アジア都市研究所(URC)令和6年度第1回都市セミナー開催概要

    テ ー マ 「持続可能な社会の実現に向けて ~ウェルビーイングと公平性の視点から~ 」
    日  時 令和6年9月25日(水) 14:00~16:30(開場13:30)
    参加方法 会場・オンラインのどちらでもご参加いただけます。
    会   場┃福岡国際会議場4階 中会議室(411・412)〔福岡市博多区石城町2-1〕
    オンライン┃Zoom にて配信します。
    次  第

    開会挨拶  公益財団法人福岡アジア都市研究所 理事長 坂井 猛
    研究報告  公益財団法人福岡アジア都市研究所 研究主査 山田 美里
    講    演  健康住宅株式会社 代表取締役 畑中 直 氏
    基調講演  九州大学 カーボンニュートラル・エネルギー国際研究所 マルチスケール構造科学ユニット
    准教授 アンドリュー・チャップマン 氏
    意見交換  司会進行:一般社団法人 A luten 代表理事 菊澤 育代 氏
    質疑応答  パネリスト:アンドリュー・チャップマン 氏、畑中 直 氏、山田 美里

    今回のセミナーでは企業の「ウェルビーイング」への取組みや公平性の視点からの脱炭素社会への転換に向けた取組みなど、持続可能な社会の実現に向けたアクションについて共有、考察を深めるとともに、後半ではトークセッションで意見を交わし、参加者を交えた質疑応答を行います。お誘い合わせの上ぜひご参加ください。

    事前の参加登録が必要となります。
    詳細はURCのWEBサイトでご確認ください。

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    2024/4/30
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    【研究報告】「ウェルビーイングの政策への 適用プロセスに関する考察」が公開

    「ウェルビーイングの政策への 適用プロセスに関する考察」(研究報告)が公益財団法人日本都市センター機関誌「都市とガバナンス」第41号に掲載されました。

    研究報告書(日本都市センターWEBサイト内)

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    2024/04/25
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    【研究報告】『ウェルビーイング~新たな都市の評価に関する研究II~』2023年度URC総合研究報告書が発刊

    『ウェルビーイング~新たな都市の評価に関する研究II~』(2023年度URC総合研究報告書)が(公財)福岡アジア都市研究所より発刊されました。2022年度から取り組んできたウェルビーイング研究の一貫で実施したアンケートの分析結果や、ウェルビーイングを政策に取り入れるにあたっての手法など、市民のウェルビーイングを実現するノウハウが詰め込まれています。

    研究概要・目次(福岡アジア都市研究所WEBサイト内)

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    2024/03/20
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    【研究報告】「主観的ウェルビーイングの規定因と政策形成に向けた考察」が公開

    「主観的ウェルビーイングの規定因と政策形成に向けた考察」(研究報告)が福岡アジア都市研究所紀要「都市政策研究」第25号に掲載されました。

    研究報告書(PDF)

    この報告では、ウェルビーイングの評価状況とその要因を分析し、政策設計への活用を視野に入れたプロセスを提案しています。アンケートによる個々の主観的な評価と、属性や生活環境などの指標を組み合わせて分析することで、政策の優先すべきポイントを科学的に導き出す方法を模索しました。
    余談ですが、研究過程ではウェルビーイングというカタカナとの戦いがありました。
    市民1人1人の感じる豊かさを点数で表してもらおうとしても、まずもってその聞きなれない言葉は何?ということで、地域の人に概念を理解してもらうことに苦労しました。

    <読者イメージ>

    ・自治体の政策担当者
    ・地域社会やコミュニティ開発に関心のある方
    ・データ分析や社会調査に携わる専門家
    ・市民・生活者の幸福やウェルビーイングに関心のある方

    <紀要「都市政策研究」とは?>

    福岡アジア都市研究所に所属する研究員の論文等を掲載する研究紀要。
    「福岡市のまちづくりに寄与」及び「アジア地域への協力・貢献」の観点から、都市政策の立案につながるような
    調査研究を集め、年1回発行されています。

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    2024/03/20
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    【研究報告】「政策における主観的指標の役割 ― ウェルビーイングの政策的展開を見据えて ―」が公開

    「政策における主観的指標の役割 ― ウェルビーイングの政策的展開を見据えて ― 」(研究報告)が福岡アジア都市研究所紀要「都市政策研究」第25号に掲載されました。

    研究報告書(PDF)

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    2023.8.27
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    登壇『SDGs未来都市に南阿蘇村がふさわしい理由』

    南阿蘇村と九州大学景観研究室との共同開催のシンポジウムに代表の菊澤が登壇しました。絶景の山々に囲まれた美しい南阿蘇村に魅了されつつ、この美しい景観をいかに次世代に引き継いでいくか…、村長もご登壇の中、非常に興味深い議論に参加することができました。

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    2023.3
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    ウェルビーイング~新たな都市の評価に関する研究~

    人々の価値観の転換や多様化等を背景に、「ウェルビーイング」という概念が広まる中、ウェルビーイングの定義や政策への導入手法について検討しました。